パブリックヒストリー研究会第15回公開研究会(共催:上智大学史学会・上智大学文学部史学科)◆日程変更あり
※ 下記第15回公開研究会は、報告者の体調不良のため、日時を変更して実施致します。
会場・スケジュールなどに変更はありません。
参加登録は、同じURLのフォームにて、8/24 までお申し込みいただけます。
ご面倒・ご心配をおかけしますが、ご容赦のうえ、よろしくご参集ください。
パブリックヒストリー研究会 第15回公開研究会
(上智大学史学会・上智大学文学部史学科共催)
「過去を生まれ変わらせる可能性─歴史系マンガ作品の製作/読解にみる歴史実践─」
○日時 :2023年8月26日(土)10:00〜17:30
○会場 :上智大学四谷キャンパス 12号館1階102教室(定員180名程度)
○開催方式 :ハイフレックス方式(対面/オンライン併用、一部報告者もオンライン参加)
○開催趣旨 :ヘイドン・ホワイトが提唱した、私たちが日々参照し未来の創造に利用している卑近な過去=プラクティカル・パスト(以下、PP)の現在地は、いったいどこにあるのだろうか?――この問いかけに最もアクチュアルに応えてくれるのは、もしかするとマンガをはじめとするポップ・カルチャーなのかもしれない。
列島近代における実証主義歴史学の黎明期、前近代PPの中核を担っていた『平家物語』『太平記』などの物語り、浄瑠璃や歌舞伎などの二次創作は、事実至上主義のもとに歴史実践の表舞台から追われていった。しかし、その返す刀で構築されたヒストリカル・パスト(以下、HP)は、言語論的転回以降、その覇権的な地位を失いつつある。オーラル・ヒストリー、ライフ・ヒストリー、オートエスノグラフィーなどの多様な方法を通じて、これまで抑圧されてきたマイノリティーの歴史語りが、歴史学のディシプリンそのものを動揺させているのである。
しかし一方で、かつては家族・親族、村落、そしてナショナルな英雄を憑坐に展開して来たPPも、それらの衰退や権威の失墜により、さまざまな変容を遂げている。いま、これらに代わって、新たな歴史実践のメディアとして機能しているのが、マンガをはじめとするポップ・カルチャーであり、そのうちに躍動するキャラクターたちなのである。彼らの紡ぐ歴史は、伝統的な血縁と国家に基づく繋がりを超えて、次々と新たな〈群れ〉を生み出しつつある。その蠢きは、やはりPPの重要な一要素として近年注目を集めている、〈偽史〉に通底するものでもあろう。
本公開研究会では、ポップ・カルチャーを文字どおりの大衆文化として扱うのではなく、人びとが現代を生きるために紡ぎ出した歴史実践、市井から立ち上がった新たな偽史として捉え直すことから始めたい。ポップ・カルチャーは確かにいまここで呼吸し、新しい過去を吐き出している。その息遣いを歴史知はいかに受け止めるべきか、改めて議論したいのである。
「このマンガがすごい!2023 オンナ編」(この区分は極めて男女二元論的であり、問題がある)でトマトスープ『天幕のジャードゥーガル』が第1位を獲得したこと、室町時代を舞台にしたマンガ・アニメのヒット、三谷幸喜脚本の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の人気など、近年の歴史コンテンツに対する関心の高さは、改めて確認するまでもないだろう。歴史科学協議会編集の学術誌『歴史評論』870号(2022年10月)は、「エンターテインメントの世界から見た日本中世史」を特集し、大きな話題となった。問題は、時代・社会との関係のなかでそれらの作品が生み出され、人びとに受容されてゆくプロセスにある。作品=アクターが私たちの精神のうちに萌芽させた新たな過去は、なぜ「新しい」といいうるのだろうか。それらポップ・カルチャーの躍動を、事実至上主義のもとに切り捨てるのではなく、過去を生まれ変わらせる歴史実践の可能性としてゆきたい。
○プログラム(タイトル・梗概はすべて現段階のもの)
10:00〜10:45
総論「『史実』と『創作』の間で─歴史実践としてのポップカルチャー─」
・師茂樹(花園大学)
歴史を題材としたポップ・カルチャー作品については、しばしば"史実と創作のバランス"の問題が議論される。そこには、恣意的に過去を利用することへの牽制と、主体的に過去に向き合おうとすることへの抑圧とが同居している。両者の間で駆動する歴史実践をすくいとっていく必要があるのではないか。
10:50〜12:30
対談・鼎談「連携・連環する歴史実践─クリエイター/評論家/歴史学者による─」
・杉浦鈴(上智大学大学院博士後期課程、ライター)
・近藤銀河(アーティスト、ライター、美術史研究)
・仲山ひふみ(批評家)
12:30〜13:30
休憩
13:30〜14:15/14:20〜15:05/15:10〜15:55/16:10〜17:30
個別報告+討論「〈新しい過去〉の課題と可能性」
・「『進撃の巨人』と歴史実践」
杉浦鈴
2009年から2021年まで『別冊少年マガジン』にて連載された諫山創『進撃の巨人』では、歴史認識を発端として起こる巨大な戦争が描かれる。本報告では『進撃の巨人』を題材として、歴史叙述がいかに人びとを連帯へと結びつけるのか、歴史叙述がどのように未来の創造へと繋がっているのかを分析する。
・「解釈と受容の共同体─『刀剣乱舞』の歴史実践の現在─」
中西恭子(津田塾大学国際関係研究所特任研究員)
ソーシャルゲーム『刀剣乱舞─ONLINE─』をめぐる解釈と受容のゆるやかな共同体は、原作ゲームのリリース以来8年を経ていま、広大なファンダムに支えられてますます広がりを見せている。本報告では、若手俳優の登竜門となった公式メディアミックスシリーズ「舞台刀剣乱舞」「映画刀剣乱舞」「ミュージカル刀剣乱舞」、博物館・美術館・所蔵先寺社における『刀剣乱舞』コラボレーション型刀剣展示、運営サイド公式行事を中心に「歴史を護る付喪神」の歴史実践とイメージネットワークの展開を紹介する。
・「『ゴールデンカムイ』に描かれたアイヌは本当に「かっこいい」か」
マーク・ウィンチェスター(国立アイヌ民族博物館アソシエイトフェロー)
『ゴールデンカムイ』の作者・野田サトルと編集部は、取材に応じたアイヌから「かわいそうなアイヌを描くのはもういい」と言われたエピソードを各種メディアに繰り返し述べてきた。過去10年間、『ゴールデンカムイ』フランチャイズがアイヌの「かっこよさ」をどこに見い出そうとし、それ自体の「負の遺産」について考えていく。
・全体討論(司会:北條勝貴、前半:個別報告対象・後半:午前の部も含めて)
○参加申込み
・下記URLよりお申し込みください。折り返しZoomのID情報をお送りします。また後日、資料のダウンロード用のURLをお知らせしますので、こちらから連絡可能なメールアドレスをお書きください。
https://forms.gle/b9sDZ6wpEMjwiZfXA
○問い合わせ先 :北條勝貴(上智大学文学部史学科、k-hojo@sophia.ac.jp)